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自分を知り、
カクテル「道」を究める

TSUYOSHI YAMASAKI

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山崎 剛

TSUYOSHI YAMASAKI

高知県出身。高知市内のレストラン&バーで勤めた後、2003年に上京し、新宿「サントリーラウンジ昴・イーグル」に入店。2005年より「STAR BAR GINZA」で研鑽を積み、統括マネージャーを務める。2018年に独立して「BAR GOYA」を開店、翌年「第46回全国技能競技徳島大会」で総合優勝。日本で唯一人、シェリー・カクテル・コンペティション優勝とベネンシアドール公式称号資格認定試験最優秀賞の二冠を達成している。

日本らしさを表現しながら、
グローバルな視点も

―2019年にN.B.A.(一般社団法人 日本バーテンダー協会)主催の全国技能競技大会で総合優勝、世界大会への切符を手にされました。大会やセミナーなどを通して海外のバーテンダーと交流があると思いますが、日本のバーテンダーと比べてどのような印象ですか?

これまで海外はスピードとパフォーマンス重視、日本は繊細で緻密な技術と接客が特徴とされてきました。ただ、最近はジャパニーズバーテンディングが注目されていて、そのエッセンスを巧みに取り入れる海外のバーテンダーが増えてきたように感じます。世界大会においても日本代表のバーテンダーは多くの観客に演技の動画を撮影されますし、技術を教えて欲しいとご来店される海外のバーテンダーも。「スタア・バー・ギンザ」に勤めていた頃は、エリック・ロリンツさんやジム・ミーハンさん(※1)がいらっしゃいました。ジムさんのダブルシェイク(両手でシェイクする)に見られるように、海外のバーテンダーは体格が良くて腕の力もあります。日本のように硬くて締まった氷が入手しづらいのもあって、短時間のパワフルなシェイクでどう仕上げるかを考えて技術を構築しているようにも思えますね。日本ではシェイクの軌道で氷と液体を動かして、空気を入れるという考えのバーテンダーが多いですから。

※1
エリック・ロリンツさん:イギリス・サヴォイホテル「アメリカン・バー」の第10代ヘッドバーテンダー。 ジム・ミーハンさん:『The PDT Cocktail Book』の著者。バーテンダー、ジャーナリスト。アメリカン・バーテンダー・オブ・ザ・イヤーに選ばれたことも。



―ハンドメジャーでも作れる技術はあるものの、メジャーカップできっちりと量るバーテンダーも日本には多いですよね。山﨑さんもスタア・バーの頃から計量スプーンを使用されています。

スタア・バーに勤めていた時と同じサイズのスプーンを使っています。シロップ用の2.5mlと、柑橘系用の5mlと15mlの3タイプ。海外ではメジャーカップを使わないイメージがありますが、ジムさんがセミナーのために来日された際、メジャーカップを使っていました。配合を細かく調整していて、まるで日本人のメイキングみたいで驚きましたね。2ピースのボストンシェーカーではなく、日本で主に使用される3ピースのシェーカーを選ぶ海外のバーテンダーもいます。今はSNSで世界中と繋がれますし、情報交換もできる時代。海外のバーテンダーは、ジャパニーズバーテンディングを自分たちのスタイルに昇華させています。つまり、世界大会で日本らしさを表現しただけでは勝ちづらい。繊細さだけでなく、これからはグローバルな視点と大胆さも持ち合わせていなければと感じます。


―日本らしさといえば、武道や芸道といった“道”を究める文化がありますよね。

ハードシェイクを提唱された上田和男さんが「カクテルに道あり」と仰っていましたし、師匠の岸久さんからは「守・破・離」の精神を教わりました。仕上がりだけでなく、その工程もとても大事だと。日本は海外から入ってきたバー文化に丁寧な所作や礼儀作法を加えて、独自のスタイルを作り上げてきました。侘(わび)と寂(さび)、茶道のお点前に近いですよね。僕も茶道やヨガ、座禅、ジム通いなどをしていますが、それらは精神的にも肉体的にもすべてバーテンディングに繋がっています。古川緑郎さんや山崎達郎さん(※2)など偉大なバーテンダーは卓越した技術だけでなく、懐も深い。僕もバランスの取れたバーテンダーになりたいですね。

※2
古川緑郎さん:銀座7丁目にあったバー「クール」の店主。伝説のバーテンダーとして現在も語り継がれている。 山崎達郎さん:1958年創業、北海道・札幌の「BARやまざき」店主として、90歳を過ぎてもカウンターに立ち続けた名バーテンダー。

オリジナルを作り続けることが、
スタンダードカクテルへの第一歩

―“カクテル道”を究めるにあたって、大会に出場する意義は大きいですか?

非常に大きいです。大会に向けて練習を重ねるため必然的に技術は上がりますし、自分を知ることができます。自分は何が得意で、何が足りないのか。多くの人前で自分を表現し、それが評価される機会はそうありません。現実に直面させられます。場数を踏めば自信がつきますし、人前に出る勇気や応援してくださるお客さまの共感も得られます。僕は、一昨年「Famille(ファミーユ)」という作品で優勝しました。このカクテルを生涯作り続けていくつもりですし、それによって大会で創作したレシピはより洗練され、時代とお客さまと共に変化を遂げていくはずです。


―寿屋(現・サントリー)主催の大会でグランプリを受賞した後、スタンダードカクテルになった「雪国」もそうでした。当時のレシピからかなりドライになっています。

大会で創作したオリジナルの作品がスタンダードカクテルとして広まるには、作り続けることが大事です。そのためにはシンプルで再現性が高く、わかりやすいネーミングでなければなりません。自家製の材料を使う複雑なレシピも増えてきていますが、僕は販売されているもので作りたい。餅は餅屋なんですよね。それらをどう生かすかがバーテンダーの仕事。近年でスタンダードカクテルになりつつあるカクテルは創作者が作り続けていますし、それをお客さまが飲んで広めています。作品に対するバーテンダーの愛情と感謝が伝わっているんでしょうね。


―スタンダードカクテルになるには、多くの人の気持ちと行動が必要ですね。

ですから、スタンダードカクテルを作るときにはオリジナルレシピを大事にしています。なるべく手を加えず、今の時代に合った美味しさが伝わりやすいレシピに。例えばスコッチベースのカクテル「チャーチル」なら、深みのあるスイートベルモットをリンスして香りづけとアクセント、複雑味を加えます。愛煙家として知られるチャーチル首相の名が付いたカクテルで、大きい葉巻を“チャーチルサイズ”と呼ぶことから、使用するグラスも大きいものを。カクテルが創作された背景、ネーミングからのイメージを一杯のグラスに表現し、伝えていきたいです。


―今後、カクテルの創作に取り入れたい素材はありますか?

僕は高知県出身なのですが、高知市春野町でイタリア原産のベルガモットが栽培されるようになりました。イタリアで作られるものとはテイストが異なりますし、新しい素材の可能性を感じています。農家の方たちとさらに繋がって、ユニークな果物やハーブなどを扱ってみたいですね。地域特産品を使った一杯でお客さまが親しみをおぼえてくだされば、一段とカクテルを好きになって頂けるのではないでしょうか。

<山崎さんの一杯>
「チャーチル」は、シェーカーのボディにスイートベルモットをリンスしてから材料を入れている。このひと手間で、ビターズのようなアクセントと複雑味の効果が。ほぼレシピどおりだが、オレンジキュラソーを少量加えて全体の味わいを膨らませている。

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