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カウンターの外でも、
意識して動く

TOMOE OSAWA

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大沢 智枝

TOMOE OSAWA

「BAR GLORY 大倉山」「葉山ホテル音羽ノ森」を経て、2006年に渋谷の「BAR AdoniS」に入店。以後、同店で15年にわたりカウンターに立ち続ける。2010年、PBO主催「バーテンダーズ・コンペティション」で最優秀賞のM.V.B.(モスト・ヴァリアヴル・バーテンダー)に。2015年には、シェリー資格称号認定試験(公式ベネンシアドール)に合格した。ハーブやスパイス、野菜を使ったカクテルが得意。

ある女性のお客さまのひと言が、
背筋を伸ばしてくれた

―このおしぼり、爽やかな良い香りがしますね。厚手でふかふかのおしぼりを温めて出す、という最初の動作からも日本人ならではの「おもてなし」を感じます。

当店のおしぼりは、レモングラスの香りを付けています。日本のバーは海外に比べて席数が少ないのもありますが、日本人らしい細やかな心配りが店内の至るところに反映されていますよね。例えばお手洗いにもおしぼりやマウスウォッシュ、綿棒などを置くバーもあります。お客さまが喜んでくださるものをさりげなく用意しておいたり、お気持ちを察して行動に移すこと。これはバーテンディングの技術や接客などすべての仕事に繋がっていきますし、実践している日本のバーテンダーは多いのではないでしょうか。一方、海外のバーテンダーはダイナミックな動きで見る側をワクワクさせてくれます。大胆な発想から生まれる斬新なカクテルも素晴らしいですね。


―海外のダイナミックな動きに対して、日本人のバーテンダーは美しく丁寧な所作をされます。普段から意識しているのでしょうか。

カウンターに立つ時だけでなく日々の生活、例えば自宅で家事をする際にも意識して動いています。お店でも、何気なく普段の自分が出てしまいますから。私は背が高いので、カウンターからお客さまを見下ろしてしまわないよう縮こまっていた時期がありました。でも、ある女性のお客さまがそれに気づいて「堂々としているほうが素敵ですよ」と言ってくださったんです。それからは、ちゃんと背筋を伸ばして働こうと気持ちを改めました。年々体力や身体の動き方は変わりますし、食事や休み方などの質が頭や身体の働き、味覚をも左右します。自分が元気でないと、お客さまに良いサービスはできません。健康管理をはじめ、常にベストな状態でいられるようにしています。大会においては、技術以外にも身だしなみや姿勢で印象が変わりますし、それが評価に繋がると思います。


―初めて大会に出場されたのは、PBO(NPO法人プロフェッショナル・バーテンダー機構)主催の「バーテンダーズ・コンペティション」でしたね。

バーに勤め始めたばかりの頃は基礎を固めたいという思いが強くて、スタンダードカクテルをきちんと作れるまでは大会に挑むべきではないと思っていました。でも、あるセミナーで神楽坂「Sanlucar Bar」の新橋さんが「大会に出場するのは自己啓発のため」と仰っていたのが印象的で、それでチャンレジしてみようと。お店で作るオリジナルカクテルとは違って、大会はひとつのテーマ、目標に向かって作品を作り上げます。練習を重ねていくうちに、気づくことや得られることがたくさんありました。一番大きかったのは、各地のバーテンダーと出会って繋がったことですね。

ふとした日常のひらめきが、
カクテルを生み出す

―オリジナルカクテルは、どのように創作されますか?

お店のメニュー用に創作するものは、特に私の日常がそのまま反映されています。自宅で作った料理をカクテルに落とし込んだり、お正月に黒豆を食べていてデザートカクテルを思いついたり。台所でスパイスを潰している時に、ラムにマサラチャイのスパイスを浸け込むカクテルをひらめいたこともありました。普段からカクテルに使える材料はないか、どことなく意識しているのだと思います。大会用のカクテルはデコレーションを含め、なるべくシンプルなレシピに。すべての材料がバーの必須アイテムなら作り続けられますし、スタンダードカクテルにもなり得ます。ただ、大会では独創性が求められるため、スタンダードになるようなシンプルなレシピは評価されにくい傾向にあるかもしれません。フレーバードスピリッツが大会で用いられるようになったのも、オリジナリティを出しやすいからではないでしょうか。オリジナルカクテルを創作した後に、どう発信して広めるかも課題です。


―確かに今も受け継がれているスタンダードカクテルは、シンプルなレシピが多いです。シンプルだからこそ、時代に合わせたアレンジができるのかもしれません。

例えば「マティーニ」ならジンを3種類、ベルモット2種類に、オレンジビターズを1drop加えて作ります。オリジナルのレシピを踏襲しながらも、より美味しく召し上がって頂くために銘柄の選定から作り方まで研究を重ねました。私が考える美味しいマティーニは、爽やかさと華やかさの中に甘やかな味わいと心地よいボディを感じられるもの。温度が上がっても美味しく、時間をかけてゆっくりと愉しめる仕上がりをイメージしています。また、お店でオンメニューしているカクテル「モンテカルロ」のレシピはアレンジをしていません。ライウイスキー45mlにベネディクティン15ml、アンゴスチュラビターズが2dashes。ライウイスキーの香りにベネディクティンの蜂蜜やハーブのニュアンスがふわっと溶け込んで、その甘さをビターズが程よく引き締めています。1dashではなく、2dashesなのがポイントで、とても良くできたカクテルですね。スタンダードカクテルのレシピは、オリジナルを創作する際に味のバランスや構成を考えるうえで参考になります。英語を理解できれば、海外のカクテルブックも参考にできますよね。


―世界大会にも出場される中、英語やスペイン語をもっと学びたいと仰っていましたね。ほかにも挑戦したいことはありますか?

十数年前から農薬や肥料を一切使わない自然栽培の食材を日頃から摂取するようになって、以前より体調が良くなりました。お店で使えそうな材料は持ち込んで、カクテルにしています。野菜やフルーツだけでなく、焼酎や日本酒、みりんも自然栽培で作られているものがあるので、いつか自然栽培の材料だけでカクテルを創作したいですね。また、昆布や鰹などの出汁、塩麴を使ったカクテルや、個人的に好きな豆類も引き続きカクテルに使っていきたいです。器にも興味があって、以前「バンブー」を生の青竹の器に入れて作りました。陶器や日本酒の枡などが、カクテルに使われる器としてもっと一般的になるといいですね。

<大沢さんの一杯>
アンゴスチュラビターズを1dash入れるレシピが多い中、2dashes使いながらも苦味を突出させずにベネディクティンの甘味を心地よく引き締め、バランスを取っている点が「モンテカルロ」の素晴らしさだと大沢さんは言う。

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