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創作したカクテルは、
自分の分身
TERUNORI MONMA
門間 輝典
TERUNORI MONMA
1997年、札幌プリンスホテル入社。学生時代にスピードスケートをしていたことから、競技における緊張感という共通点を感じ、初めて出場したカクテルコンペティションから夢中になる。2002、2003年の「サントリー カクテル オブ ザ イヤー」、2006年の「サントリー ザ・カクテルアワード」で入賞。2010年には「第27回HBAクラシック創作カクテルコンペティション」のグランプリである国土交通大臣賞を受賞している。2018年より品川プリンスホテル「DINING & BAR TABLE 9 TOKYO」に勤務し、後進の育成にあたっている。
ホテルにおけるバーテンダーの存在意義
―プリンスホテルに勤務されて25年目、最近はバーにおけるオペレーションの改善や後輩の育成に携わる事が多くなったと伺いました。どのようなことに重点を置いて指導されているのでしょうか。
ホテルに従事するバーテンダーは、時にレストランサービス、コンシェルジュ、朝食から宴会までをこなすスキルが求められます。町場のバーと違い、バーテンダー業務に特化することが難しいですが、このように多岐にわたって学べる環境はなかなかありません。後輩には、まず「3年後にどうなりたいのか」を聞いています。ソムリエの資格を取りたいとか、カクテルコンペティションで受賞するといった目標、バーテンダーとしての理想像を描くことが向上心を持ち続けることに繋がると考えているからです。ホテルバーの特性上、ご旅行などで一見のお客さまも多いのですが、バーはお客さまと接する時間が比較的長い職種。滞在中に笑顔で過ごして頂けるよう、身だしなみから所作、開店前の掃除やジュースの搾汁といった準備をしっかり整えることが大事だと指導しています。床もグラスも拭くのではなく磨いて、その仕事を通して人間性も磨いていく。お客さまを迎える「しつらえ」が整ってこそ、「おもてなし」の空間が実現すると思っています。
―3年前に札幌プリンスホテルから品川プリンスホテルへ異動されましたが、札幌ではHBA(一般社団法人日本ホテルバーメンズ協会)の北海道支部長を務められましたよね。地産地消のカクテルコンペティションが印象的です。
「北海道産農産物を使った全国カクテルコンクール」ですね。北海道支部主催で、バーテンダーだけでなく一般の部も設けて開催しました。北海道産農産物の価値向上と消費拡大、観光振興に貢献できればという思いと、バーテンダーという職種を広く知って頂きたいと2012年に始めた大会です。こうした活動を後輩に繋げ、彼らが大会で成績を収めることができれば自身が勤める企業への貢献と、バーテンダーとしての存在意義が確固となるのではないでしょうか。私も過去の入賞実績からホテルにおけるバーテンダーの必要性を理解され、大会に挑戦しやすい環境に身を置くことができました。ほかの大会ですが、札幌の食文化のひとつ“シメパフェ”(飲食後の締めにパフェを食べること)や、ジンギスカンをモチーフにしたカクテルを創作したこともあります。カクテルを通して、その土地やバーに興味を持って頂けたら嬉しいです。
―門間さんは、以前より数多くの大会でご活躍されています。入社何年目から出場されているのですか?
入社2年目から挑戦しています。当時はバーテンダーとしての先輩が職場におらず、ひとりで練習を行っていました。入賞するまで何度も悔しい思いをしましたが、HBAの先輩方に深夜までご教示頂いたり、初優勝が叶った「全国プリンスホテルカクテルコンクール」の前日に札幌から東京入りした際には品川(現在の職場の前身である「Top of SHINAGWA」)の先輩が演技指導をしてくださるなど、大変お世話になりました。大会に向けて多くの仲間やお客さま、会社の理解を得ながら期待を背負い、それに応えることができたときに自身の成長を感じることができますし、更に上を目指して挑戦し続ける原動力にもなります。2010年に「国土交通大臣賞」を頂いた時、優勝経験のある先輩から「自分だけでなく、指導した後輩が優勝してこそ」と教えられました。先輩方への恩返しとして、また、バー業界の未来のために若手バーテンダーの育成をしております。

お客さまとの関係性も大いに味覚に反映される
―今日お作り頂いたカクテルもそうですが、門間さんといえば「マルガリータ」ですよね。あるお客さまとのエピソードがあるとか。
大会に挑戦し始めたのと同じ、入社2年目のことです。開業当時からのお客さまであるT様が、マルガリータをご注文されました。古くからいらしていた方で、緊張しながら差し出すと「こんなまずいものは飲めない」と突き返されてしまったんです。ほかのお客さまは「美味しい」と言ってくださるのですが、T様はその後何度お作りしても納得されませんでした。何がお口に合わないのかわからず、さまざまなお店に足を運んではマルガリータを注文して勉強したものの、解決できないまま数か月が過ぎました。ある日、またお叱りを受けるのではと恐る恐るお出しすると「やっと飲める味になったな」と。それは、最初にお作りしたレシピと同じでした。カクテルは熟練した技術も大切ですが、お客さまとの関係性も大いに味覚に反映されるのだということを実感しましたね。最初にカクテルを突き返された時に怖気づいてT様を避けていたら、私の成長もT様との信頼関係も築けなかったでしょう。私にとって、マルガリータは思い出深いカクテルです。
―そういえば、「第27回 HBA創作カクテルコンペティション」で優勝された「ATURAE(あつらえ)」は、マルガリータのツイスト(アレンジ)でした。
マルガリータを和風に仕上げたカクテルですが、実は一度で完成したカクテルではありません。ほかの大会に出品しても受賞できず、何度もレシピを見直してようやく審査員の方々に選んで頂きました。抹茶を使った創作カクテル「御手前」も、いくつかの大会で発表して最終的には「TEN-CHA」というカクテルに昇華させています。創作したカクテルは、自分の分身。大会に挑戦して受賞できなかったらそれで終わり、ではありません。その作品をお客さまにご提供できるようになるまで、さらに磨きをかけること。“結果は、経過”。ずっと大会で入賞できなかった私が、尊敬する先輩にいつも励まされていた言葉です。もし、大会で思うような結果にならなくても、時間をかけて生み出した自分の分身を大切にしてくださいね。
<門間さんの一杯>
「トミーズ・マルガリータ」は、近年誕生したスタンダードカクテルのひとつ。100%アガベテキーラをベースにアガベシロップとライムジュースをシェイクして作る、塩なしのロックスタイルだ。ポイントは、門間さんが考案者のフリオ・ベルメホ氏から直接教わったというアガベシロップの扱い方。水と1:1で混ぜる際、バースプーンでふわふわになるまで撹拌し、柔らかい口当たりに仕上げる。使用する軟水「南魚沼のおいしい湧き水」(硬度7)は、プリンスホテルのオリジナルミネラルウォーター。
