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素材を知り、
理解することが最も大切
SHINGO NOMA
野間 真吾
SHINGO NOMA
広島県広島市生まれ。18歳よりホテルや飲食店などでの勤務を経て、2013年に独立。広島市内に3店舗のバーと2店舗の紅茶専門店を展開する。地場の特産品を使った商品開発や観光プロモーター、地元酒造のアンバサダーなどを務め、広島の魅力を発信し続ける郷土愛あふれるバーテンダー。カクテルコンペティションにも積極的に出場し、数々の賞を受賞している。
広島を日本に、世界にアピールしていきたい
―広島市内でバーを3店舗展開されていて、普段は紙屋町の3号店「The Bar Top Note Ⅲ」にいらっしゃるとお聞きしました。紅茶専門店も2店舗営まれているということですが、バーでも紅茶を使ったカクテルを出されているのでしょうか。
いくつかオンメニューしています。ウイスキーにラプサンスーチョンを浸漬させてドランブイと併せたラスティ・ネイル、アールグレイの茶葉を浸けたジンをベースにしたネグローニなど、スタンダードカクテルのツイストをよくご注文頂きますね。ノンアルコールのカクテルなら、徐々に3層が混ざって味の変化が楽しめるダージリン、パイン、パッションフルーツのセパレートティなど。ほかにも紅茶のコーディアルを作ったり、そのまま濃い目に煮出してお酒と混ぜたりといろいろな使い方ができます。アルコールも温度で香りなどが変化しますが、紅茶はより繊細で扱いが難しいですね。紅茶専門店では、ハーブ、フルーツ、薬草などをブレンドしたオリジナルのフレーバーティをお出ししています。カクテルはミックスドリンクですから、発想は同じ。バーテンダーの経験が紅茶のブレンドに活きています。
―メニューを拝見すると「牛蒡のモスコーミュール」「シナモンラムのキューバリブレ」など、確かにツイストカクテルが多いように見受けられます。
伝統は大事にしたいので、クラシックをリスペクトしながら新しいことにも挑戦しています。あくまでもスタンダードに重きを置いたアレンジで、レシピはシンプルに。ただ、シンプルにするがために素材には手間暇をかけます。例えばジンをベースにするならどのようなボタニカルを使っていて、何と相性が良いのか。作りたいカクテルをイメージして、足りない部分があれば補えるものを探したり自家製で作ります。素材を知り、理解することが最も大切ですね。自分にしか作れない、そこでしか飲めない一杯も付加価値ですが、そもそもバーテンダーが100人いれば100人の味わいがあります。同じスタンダードカクテルを作っても、ひとりひとり違う個性が表れる。誰もが作れて、後世にも受け継がれていくカクテルを創ることが私のテーマです。広島の素材も、どんどん使っていきたいですね。
―広島といえば、レモンや牡蠣の生産量が多いことで有名ですよね。
レモンに関しては、広島県から依頼を受けて牡蠣に合う「広島トマトレモンサワー」を創作しました。凍らせたレモンとトマトのざく切り、焼酎をグラスに入れて炭酸で割るだけ。シンプルで誰でも作れる美味しいレシピになっています。また、牡蠣殻はスピリッツに浸漬させるとミネラル感が出て面白いんですよ。それをベースに「ホワイトレディ」を作ると、塩を少量加えるのと同じような効果で柑橘の甘さがぐっと引き立ちます。ほかに広島県産のジュニパーベリーを使って造られるジン、生姜や紫蘇、ほうじ茶などもカクテルに使っています。広島を日本に、世界にアピールしていきたいです。

待っているのではなく、こちらから発信する
―野間さんは一昨年、3つのコンペティションを制覇されました。ほかにも多くの大会で活躍されたことは、広島のバーが注目されるきっかけになったのではないでしょうか。
若い頃は自分を含め、腕試しで大会に挑戦するバーテンダーが多いと思いますが、最近は広島のバー文化を発信したいという思いで出場しています。今はSNSなどインターネットで情報を調べることもできますが、地方で開催されるセミナーやコンペティションは圧倒的に少ないですよね。体感することはとても大事ですから、地方は不利に感じることもあります。でも、それならば待っているのではなく、こちらから発信しようと。大会で受賞したり、さまざまな資格を取ることは少なからず広島のバーのイメージを変えることに繋がります。海外のバーテンダーは社会的なポジションが高く、憧れの職業になっていますが、日本ではまだまだ程遠い。グローバルで活躍されている日本のバーテンダーが増えてきていますし、私もそこを目指して大会に出続けるつもりです。ジャパニーズバーテンディングを若い世代に伝えて、この仕事に憧れと夢を持って頂きたいですね。
―大会に向けてカクテルを創作する際の難しさや、重視されるポイントを教えてください。
テーマがない大会は、自由だからこそ悩みますね。使用するベースが決まっているメーカーさんの大会や、何かしらテーマのあるほうが創作しやすいです。そのまま飲んで充分美味しいお酒をベースにしたカクテルの創作も難しい。その場合は、お酒が持っている特長をさらにボリュームアップさせるように組み立てています。大会ではひと口、ふた口ほどで審査されるので、ファーストインパクトが残るような香りと味わいに仕上げているバーテンダーが多いのではないでしょうか。大会で5杯分をまとめて作るのと、営業中に1杯分を作るのとでは味わいが全く異なります。5杯分を作るということは、氷の量が増えるから仕上がりの液体量も増えるということ。はじめに1杯分で美味しいレシピを決めて、そこから水分量を計算しながらベースを増やしたほうがボディが残るとか、甘味が足りないからリキュールを増やす、逆にこれは引くといった足し算、引き算の調整は必ず行います。
―会場に到着して、まず確認されることはありますか? また、今後の大会に期待することは何でしょう。
いの一番に確認するのが、氷の大きさや状態です。それから同じタイミングでステージに上がる選手のレシピを見て、大体の動きを想像します。自分のほうが30秒早く終わりそうだと判断すればあえて30秒遅く作るようにしたり、余裕があれば壇上で音を聞きながらどの程度相手が進んでいるかを考えながら作りますね。早く作り終わってしまうと、その分カクテルがぬるくなってしまいますから。出来立てが一番美味しいので、審査員に届くまでの時間は短いほうが良いですよね。今後は、オープンジャッジでバーテンダーも観客も審査内容が明確にわかる大会を期待します。そうすることで会場に一体感が出ますし、より興味深い大会になるのではないでしょうか。
<野間さんの一杯>
「ホワイトレディ」はドライジン30ml、ホワイトキュラソー15ml、レモンジュース15mlが標準レシピだが、野間さんは40ml、10ml、10ml。ハードシェイクで作るため、ベースをしっかり入れないとボディがなくなりぼやけた味になってしまうからだ。搾ったレモンの酸味によってシロップの量も加減しており、甘味と酸味のバランスが難しい。しかし、それがカクテルの醍醐味だと野間さんは言う。
