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カクテルに使う材料は、
すべてに意味がある

KOJI NANMOKU

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南木 浩史

KOJI NANMOKU

大学在学中に渡米し、ニューヨークバーテンディングスクールを卒業。クラシックカクテルについて研鑽を積み、ヨーロッパを巡りながらミクソロジーを学ぶ。各種コンペティションで受賞後、企業とのカクテル創作、シェフとのペアリング、ゲストシフト、セミナー、ツール制作などを行うGastronomy Algorithmを立ち上げ、世界中で活動している。東京・汐留「パークホテル東京」のバーマネージャー。

温度や糖度の適正値を細かく分析

―南木さんの「マンハッタン」、相変わらず美味しいですね。スタンダードカクテルを作る際に温度を重視されているということですが、マンハッタンはそれほど冷やす必要がないと。

氷が無かった時代は、当然ながらカクテルがぬるかったそうです。その後製氷機が登場して、氷が手に入るようになってから提供されるカクテルの温度が変わってきました。氷点下のビールを飲むほど日本人は冷たいものが好きで、先人のバーテンダーによるカクテルブックにもとにかく冷たく作るように書いてあります。でも、昨今は素材によって温度を調整するようになってきたのではないでしょうか。僕は、マンハッタンであればキンキンに冷やさずに12~13度で仕上げています。リッチで熟成した、良い状態のブランデーに近い味わいが理想なので。ただ、マティーニは柑橘系が入ったシェイクで作るショートカクテルよりも温度を低めにしたほうが美味しいと思うこともあります。使う素材によって、温度の適正値を考えるようにしています。


―適正値といえば、糖度に関しても細かく研究されていますよね。

水は1ml=1gですが、水が1に対して砂糖を2で作ったシロップは糖分を含んで重くなるので1mlが1gではなくなります。特に自分が創作したカクテルは、お客さまにお出しする状態に仕上げた後、必ずその液体のmlとgの数値を量るんですよ。分かりやすく大袈裟に言うなら、120mlの液体が240gになってしまったら、すっきりとゴクゴク飲めるカクテルにはならない。逆にアレキサンダーのような甘くてクリーミーなショートカクテルがサラサラとした飲み口でジンフィズと同じくらい軽かったら、きっと満足できないですよね。口当たりがやや重いからこそ、満足感があって美味しいはず。つまり、グラムの適正値があるということです。味覚の中でグラムの数値を上げる最大の要素が糖度なので、自家製のシロップや既製品のピューレをカクテルに使うときは糖度計で測定して、飲み口に影響がないか確認します。ギムレットのようにジンとライムジュースの組み合わせで比較的軽いカクテルは、甘さを調整する際にリッチなシロップを使うと重たくなってしまいますよね。水と砂糖の割合を1:1と1:2で作ったシロップと、溶けやすい粉糖の3種類をカクテルによって使い分けていて、ギムレットなら粉糖を選びます。


―オリジナルカクテルを創作する過程で、重視されているポイントはありますか?

無駄なものを入れないことです。すべての材料に意味があることが絶対条件。2種類で完結できるなら2種類にするべきですし、8種類ならそれぞれ使う意味を説明できなければ入れるべきではないでしょう。個人的には、時間の経過を愉しめるカクテルが好きでいろいろと創作しています。口に含んでから徐々に味わいが変わっていくものや、香りと味わいは全く違うのに不思議とまとまっているもの。例えば桃と玉露とシャンパンを使ったジントニックは、桃を清澄化したクリアなピーチジュースと玉露を低温抽出したジン、ガスが抜けてしまったシャンパンをコーディアルシロップにしたものとトニック、ソーダで作りました。グラスに鼻を近づけると桃の香りがふわっとして、飲むと玉露のフレーバーが広がります。そして鼻から抜ける時に玉露とシャンパンの香りが混ざって酵母のような香りになり、最終的に一体感が出る。この時間差が飲み手に驚きを与えます。ただ、こういうカクテルばかりだと疲れてしまうので、飲んですぐ素直に美味しいと思えるカクテルも作りますけどね。

人に不快感を与えるスピードなら速いとは言えない

―ニューヨークのバーで勤務されていた経験もありますし、海外のカクテルブックを参考に創作されることもあるのでは?

ジェリー・トーマス著『How To Mix Drinks(1862年)』やハリー・ジョンソン著『Bartender’s Manual(1882年)』などの復刻版は、ほとんど読んでいます。いま僕たちがクラシックカクテルと呼んでいるものは、当時の最先端カクテル。どのような考えで創作していたのかを想像することで、勉強になります。最近ならNYのバー「The Dead Rabbit」のカクテルブックやシュラブなどの専門書、お茶や料理の本も読みますよ。数年前、素材ひとつひとつの知識を高めようとひたすら様々なものを口にして、考えるだけで頭の中ではっきりと味わいが再現できるほどに訓練したことがあって、それをもとに海外のカクテルブックや料理本を見ながら組み合わせをイメージしていました。海外の人は、日本人が思いつかないようなものを組み合わせるんですよね。クリエイティブで自由、先入観がない。それをそのまま真似するのではなく、どうしてそのような発想に至ったのかを考えます。すると自分の引き出しが増えて、頭が柔らかくなるんです。


―一方で、日本のバーテンダーとして海外に発信できること、誇れることは何でしょう。

高い技術力と、一人一人のゲストに寄り添うサービス力でしょうか。海外ならバックバーに置くお酒は売れるものが基準だと思いますが、日本は「たまにご来店されるあのお客さまのため」のお酒が置いてある。そういう感覚は日本人ならではですよね。それから僕はゲストバーテンダーとして海外へ行くことが多いのですが、バーテンダーとしてはもちろんのこと日本人として丁寧な仕事をしようと心がけています。細かい部分にこそ、手を抜かない。「モノには魂が宿る」精神で、ボトルやグラスをはじめ道具を大事に扱っています。以前、渋谷のバー「石の華」の石垣さんが「人に不快感を与えるスピードなら速いとは言えない」と仰っていました。石垣さんのカクテルメイキングは、速くて正確で美しい。最近は日本のバーテンダーもメイキングが早くなってきていますが、クオリティが安定しなければ意味がありません。その点は、僕も注意しています。


―近年、スタンダードカクテルが誕生していないのはどうしてだと思われますか?

此の所カクテルが多様化して、さまざまな材料や技法が使われるようになりました。誰でも作れるものを作るより、自分にしか作れないものを作ってセルフブランディングに繋げていく。カクテルを通して、自分はこういうバーテンダーだということを伝えているんですよね。つまり、バーテンダーの個性を発揮する時代になったのではないでしょうか。21世紀の新定番といわれる「ジン・バジル・スマッシュ」は、SNSでドイツから世界中に拡散されたことからスタンダードカクテルとして認知されるようになりました。SNSで世界中に発信できる時代なら、いつスタンダードカクテルが生まれても不思議ではないですよね。それが何故なかなか生まれないのか、生み出すにはどうすれば良いかを考えれば自ずと答えが出てくるかもしれません。

<南木さんの一杯>
日本ではあまり知られていないが、「スイセッセ」は古い文献にも登場するアブサンベースのクラシックカクテル。アルコールをやや強めに感じる場合、レモンジュースなどほかのレシピの比率を変えたり、氷の数や形、シェイクやステアの仕方を工夫するのが一般的だが、南木さんは水を加える。水を材料のひとつとして扱うという概念は珍しいかもしれない。

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