8

毎日の積み重ねが、
気持ちの余裕を生む

ASUKA YOSHIKAWA(HIJIYA)

SCROLL DOWN

吉川(土屋) 明日香

ASUKA YOSHIKAWA(HIJIYA)

大学卒業後、児童養護施設の職員を経て岡山県倉敷市の「Salon de Ric’s」に入店。2019年、「サントリー ザ・カクテルアワード」において最高峰の栄誉「カクテル アワード 2019」に輝く。2021年4月より、広島県広島市の「bar FOUQUE」へ。サントリー カクテル アンバサダーとしてさまざまなジャンルのお酒を学び、その魅力を発信している。

桜が散る儚さと幻想的な情景を表現した「春夢」

―ジャパニーズクラフトウオツカ HAKU(白)をベースにしたカクテル「春夢」で、一昨年の「カクテル アワード 2019」ジャパニーズカクテル部門 最優秀賞を受賞されました。どのようにカクテルを組み立てていったのでしょうか。

全体的なイメージから入って、レシピの構成を考えながらカクテル名を決めました。当時は岡山県倉敷市のバーに勤めていまして、観光スポットとして知られる美観地区が近くにあることから海外のお客さまがよくお見えになっていたのが「春夢」を創作したきっかけのひとつです。2019年からジャパニーズカクテル部門が新設されましたし、桜や紅葉の季節にいらっしゃる海外の方たちにカクテルで日本を感じて頂きたいなと。誰もがわかりやすい桜を思い浮かべて、まず手に取ったのが桜のリキュール。それからウォッカの「HAKU」と、奏シリーズ(※)の中で最も相性の良かった「白桃」を選んで、アクセントとして「わつなぎ 生姜」(※2)をあわせました。「HAKU」は国産米を100%原料にした、やさしい香りとほのかな甘さが特長のウォッカ。柔らかく包容力のあるフレーバーが、ベースにぴったりだと思いました。


奏シリーズ:「ジャパニーズクラフトリキュール 奏 Kanade」シリーズは、和素材を使ったジャパニーズクラフトリキュール。ほかに桜、抹茶、柚子がある。

※2 
わつなぎ 生姜:和糖と和素材にこだわったプロフェッショナル向けのプレミアムシロップ。



―ガーニッシュにレッド・チェリー、大根、レモンの皮、穂紫蘇、干しぶどうの枝、南天の葉と6種類使われています。淡いピンク色のカクテルに映える美しいガーニッシュですね。

ありがとうございます。テーマが桜、春でしたので明るい色味にして、春の訪れを思わせる生命の息吹を表現しました。カクテルを創作する際は料理やお菓子のレシピからヒントを得ることもありますし、自然の風景から「こんな色合いのカクテルを作りたいな」と想像することもあります。普段の生活からインスピレーションを得ることが多く、実際に「春夢」は桜がひらひらと散っている様を見て、その儚さや幻想的な情景をカクテルで表現できたらと創作しました。2018年も「Aqua jewel」という作品でファイナルに臨ませて頂いたのですが、それもスキューバダイビングに行った時の景色がもとになっています。カクテル名に関しては、自分が思い描く抽象的なイメージから言葉を探すこともありますし、曲名や歌詞などを参考にすることもあります。


―ファイナルでは、とても落ち着いた演技をされていましたね。数多くの練習を重ねたことが伝わってきました。

実は、2018年のファイナルで失敗してしまって。競技中、氷が舞台の下まで飛んでいってしまったんです。すごく悔しくて、もう一度チャレンジしたいと思いました。どうしたら上手くいくか1年間考えて、営業中も所作などを意識していましたね。通勤中も舞台に上がるところから捌けるまで、何回も頭の中でイメージトレーニングをしました。イメトレはとても大事で、毎日積み重ねることで気持ちの余裕が生まれます。お店で練習する時は、まず本番さながらに最初から最後まで通して、2回目以降に直したほうが良いところを部分的に調整していました。本番は一度きりで、やり直しがききません。毎回、その第1回目に集中して、2回目、3回目で調整したことを翌日の第1回目に繋げていました。付け焼刃ではどうにもならないことを改めて感じましたし、結局は毎日の積み重ねなんですよね。

引き算の考え方に繋がった「余白の美」

―大会に向けた練習や普段の営業以外で、所作や接客力、創造力などを高めるために実践されていることはありますか?

2年ほど前から、以前習っていた書道を再び始めました。字を上手に書くのはもちろんのこと、いかに半紙の余白を魅せるかという考え方が面白いなと。墨の黒と半紙の白のバランス、余白の美ですね。カクテルのデコレーションを創作する際も、飾り過ぎずに空間をどう見せるかという引き算の考え方ができるようになりました。また、大会において発揮できる集中力も磨かれますし、お客さまへのお手紙もすべて手書きでお出ししています。バーテンダーになる前は児童養護施設で働いたり、中学から続けている打楽器などいろいろなことに興味を持っていました。アフリカ・ギニアでジャンベという打楽器のスタディツアーに参加したり、インドのマザー・テレサの施設へ行った経験がカウンターでお客さまと会話する時に活きています。引き出しは多いほうが、接客においてプラスに働くのではないでしょうか。


―いまノンアルコールカクテル(モクテル)が急激に伸びてきていますが、吉川さんは以前からよく作られていたとか。

前の職場がノンアルコールカクテルにも力を入れていました。紫蘇とピーチのジュレップや、オレンジピールとコーヒーシロップのフローズンカクテル、それから数種のハーブやスパイスにお湯を加え抽出したものに、ローズシロップやレモンを加えたノンアルコールティーカクテルなどをお作りしていました。今後さらに需要は増えてくると思いますし、新しい作品を考えたいですね。また、これまでガーニッシュや浸け込みで使っていた山椒も違う形で表現したいです。海外でもスイーツなどに取り入れられていて、注目されているらしくて。日本の素材は繊細かつ奥深い味わいに仕上げられますし、それがジャパニーズカクテルのユニークさだと感じています。


―日本の素材を使って、和をコンセプトに創作するジャパニーズカクテルの大会がもっと広まるといいですね。

選手全員が同じ素材を使うコンペティションがあったら面白いのではないでしょうか。例えばお題が「生姜」で、リキュールでもシロップでも、フレッシュ、インフュージョン、使い方は何でもかまいません。それぞれの個性が出やすいですし、バーテンダー同士でも「そういう使い方があるんだ」と勉強になるはずです。ジンと生姜とリキュールの3種類という縛りでも良いですし、何かお題があって、それをみんなで考えて発展させるような大会があったら素敵ですよね。

<吉川(土屋)さんの一杯>
「当店はウイスキーを豊富に取り扱っていますので」と、吉川さんが差し出したのは海外で人気のカクテル「ペニシリン」。オリジナルではなく、サントリーのサイトで紹介されている「バランタイン ファイネスト」をベースにしたレシピで作って頂いた。オリジナルレシピにある「ハニー・ジンジャー・シロップ」は、蜂蜜と「わつなぎ 生姜」で代用している。

BACK TO TOP